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ダニー・ボーイ・ファンタジア
アイルランド民謡、ダニー・ボーイ。大元の題材である「ロンドンデリーの歌」としてもよく知られており、このロンドンデリーがある北アイルランドにおいでは、事実上の「国歌」としての扱いも受けている楽曲です。
「事実上の国歌」という言い方をしましたが、この北アイルランド、正式名称は ”The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland"、つまり「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」、イギリスを構成する地域の1つとして存在しています。このことについて掘り下げてみると、領土問題や独立紛争、また、デリー、ロンドンデリー名称問題などの様々な歴史を窺い知ることができます。
このロンドンデリーの歌は、当初「名も知らぬどこかの歌」として民謡収集家のジェーン・ロス Jane Ross(1810~1929)により採取され、その後『アイルランドの古典民謡 The Ancient Music of Ireland』(1855年)に収録、「ロンドンデリーにおいて採取された歌」として知られていくことになります。
様々な考察、作詞がされていく中、20世紀に入り、イングランドの弁護士、作詞家であったフレデリック・エドワード・ウェザリー Frederic Edward Weatherly(1848~1929)によって作詞され、その後何度か改変された歌詞が「ダニー・ボーイ」の原型として、今日まで広く親しまれています。
”ああダニー、バグパイプの音が呼んでいる”と歌い出す歌詞。愛する人を想う歌、戦争へ赴く息子への歌など、その解釈は個人に委ねられています。
-夏が過ぎ、バラも枯れ落ちていく中、あなたは行ってしまう。しかし私はいつだって、ここであなたの帰りを待っている。たとえ私が死んだとしても。-
故郷はいつだって故郷です。この大きくあたたかな愛の歌が、アイルランドはもちろん、世界中の人々のアイデンティティーに深く寄り添っているのではないかと思います。曲を作る人間である私自身も、いつかこの歌を題材にしたいと強く考えておりました。《ダニー・ボーイ・ファンタジア》は、最初私の地元の楽団に5分程度の小さな曲として提供され、その後神戸シンフォニックバンド様の委嘱を受け、正式な作品として完成しました。時間をかけて納得のいく作品が作れたことに、とても満足しています。
本作では、「ダニー・ボーイ」の旋律は冒頭からは提示されません。しかしながらその断片は各所に散りばめられており、曲が進むごとに少しずつその姿を表していく構成をとっています。約12分という長い物語の中で、この旋律がどのような変遷を遂げていくのかに着目してお聴きいただければ幸いです。
…さて、ここまでのプログラムノートは、2020年初頭に執筆されたもの。2019年4月の第39回定期演奏会で《あなたとワルツを踊りたい》を演奏してくださった、そのご縁で続いた《ダニー・ボーイ・ファンタジア》は、残念ながら予定通り演奏されることは叶いませんでした。実に4年越しとなる今日を、私は忘れることはないでしょう。開催にあたってご尽力いただいた皆様に、感謝申し上げます。
野呂 望
野呂 望氏 公式ウェブサイト
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